『伏(ふせ) 贋作・里見八犬伝』のレビュー

里見八犬伝をモチーフにしたファンタジーです。

江戸が舞台。「伏」と呼ばれる人の姿をしながら本性は犬という妖怪めいた生き物を狩る猟師の少女のお話です。

兄・道節の下に山奥からやって来た少女・浜路。猟師の伎倆で人の間に隠れ潜む凶悪な「伏」を見つけ出しては狩る彼女は、獲物である伏の1人・信乃と妙な縁が生まれます。狩るものと狩られるもの、その間に生まれる情のようなものが瞬時生まれ、まだ恋も知らない無邪気な浜路をして「あれはあたしの獲物、かならず仕留める」と思わせるまでの顛末を描いてます。

この作品は『里見八犬伝』をモチーフにしてますが、私達が知る馬琴の『八犬伝』とは別に馬琴の息子が現地調査の上で書き上げた真の伏姫と八房とのいわくを描いたという「贋作・八犬伝」というのが紹介される形となり、犬人間の「伏」の不思議なルーツが語られます。

「伏」とはなんとも奇妙な経緯で生まれた生き物なのですが、彼らの本質は「自由」にあるのだと思います。

人が人らしくあることを止めて初めて手にすることのできる、社会や道徳に縛られないまっさらな自由。それに焦がれつつも人間は人としてあるためにそれに蓋をして生きていく。それは人の世にあっては許されてはならないものであって、故に人はそれらを犯罪/罪/敵として抹殺しなくてはなりません。

短い寿命の中愛を知りたいと思いながらただただ生き延びる為逃げる信乃を、彼に微かに「何か」を感じながらも自覚することのない浜路が追いかけていきます。

好き勝手に人を殺す伏は人間にとって狩ることが絶対の存在です。彼らが狩られることは必然であるものの、そこに野生の、自然な命の姿があって、このあたりが切ないです。