どれを読んでもハズレなしの短編小説集『停電の夜に』

作者のジュンパ・ラヒリはインド系のアメリカ人女性です。この短編小説集『停電の夜に』はデビュー作にしてピュリッツァー賞を受賞、日本でも翻訳が出て、翻訳小説としては珍しく増版を重ねました。もう10年以上も前のことです。当時、インド好きでインドに何回か行っている友人に勧められて読みました。

小説の舞台は、インドとアメリカと半々くらいです。タイトルにもなっている『停電の夜に』は、醒め始めているまだ若い夫婦が停電によってその仲を修復するかと思っていると、最悪ともいえる結末を迎えてしまう…というもので、読後に苦味が残る作品です。全体的にはもの悲しいストーリーが多いのですが、最後の『3度目で第3の大陸』はしみじみとした想いにさせられる作品で、収録作品の中で一番ファンが多そうです。その他の作品も、短編小説ながら、思いもよらないどんでん返しが用意されているものが多く、あっという間に読んでしまいました。

日本人にはなじみのないインドの風習などもわかり、異文化も体験できます。特に料理の描写がリアルで、引き込まれます。家族のためにせっせとお菓子を作る主婦の姿の描写はまるで映画のよう。インド料理=カレーとばかり思ってしまうのは大間違いでした。アメリカに住んではいるものの英語が不得意だったり、インド人であることを誇りに思っていても、子供たちは違う考えだったり、アイデンティティーについても考えさせられますが、理屈抜きでも面白く読める短編集です。英語版の文庫も出ています。